ユナイテッド93
最初に疑問があった。
米国民にとって、9.11同時多発テロの心のキズも
癒えていないこの時期に、何故映画の公開を強行するのか?
例によって、ハリウッド流金儲け主義と「家族愛と正義」を謳う
愛国心鼓舞映画なのか?
私は否定的な気分で出かけた。
映画はドキュメンタリー風のカメラワークで淡々と進行する。
44名の乗客を乗せたユナイテッド93便がテロリストに
乗っ取られ、パイロットは惨殺される。
操縦桿をにぎるのはハイジャック犯だ。やがて、携帯電話で
貿易センタービル突入を知る。もう助からないと悟る乗客たち。
家族に電話をかける。「愛してる。さようなら。」
乗客のなかに火垂の墓の節子の顔がダブって見えた。
世界の対立のなかで、犠牲になるのはいつも弱い者たちだ。
映画は一方的な視点で描いているわけではない。
恐怖に震えながらもコーランを口ずさむテロリストたち。
お互いを相容れない「異文化」の衝突は永遠に繰り返されるだろう。
そんな暗澹たる気持ちになる。
ブラックコーヒーはほろ苦いけれど、思考回路を覚醒させ、
私たちに「何が正しくて、何が正しくないのか?」という質問を
投げかける。この映画は傑作だ。